マルクス主義FAQ

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マルクス主義に関するFAQをつくってみた。マルクス主義に関するごく初歩的な疑問や幼稚な批判を自分なりに片付けてみたいと思ったからだ。現在の思想情況の貧困化に少しでも抵抗できれば幸いである。

  1. マルクス主義に関する一般的な入門書はありますか?
  2. マルクス経済学のテキストを紹介してください。
  3. 『資本論』の翻訳にはどんなものがありますか?
  4. インターネット上にはマルクス主義関連の文献はありますか?
  5. マルクス主義に関するメーリングリストはありますか?
  6. 日本のマルクス経済学にはどんな学派がありますか?
  7. マルクス経済学と近代経済学という二つの経済学があるのはなぜですか?
  8. 社会主義と共産主義はどう違うのですか?
  9. 資本家というのは株主のことですか。経営者は資本家ではないのでしょうか。
  10. 経営の民主化と労働者独裁とどこが違うのか。
  11. 『資本論』は経済学批判の書であって、経済学の書ではないのではないか。
  12. マルクス主義は科学だとエンゲルスは言うが、科学と言えるのは経済学の部分だけで、階級闘争や革命を主張している部分は科学ではないのでは。
  13. 現代の日本にはマルクスの時代のような飢餓スレスレの貧困は存在しません。搾取の問題はもはや重要ではないのでは。
  14. 搾取がいけないというなら、強度の累進課税を要求すればいいんじゃないですか。
  15. ソ連が崩壊したことは計画経済の欠陥を証明しました。社会主義が資本主義より劣ったシステムであることは明白な事実です。
  16. 冷戦は資本主義世界の勝利に終わりました。いいかげん社会主義にしがみつくのはやめたらどうですか?
  17. 現在の日本は9割が自分を中流と感じるほど平等な社会です。階級なんてもう存在しないのではありませんか?
  18. マルクスやレーニンの時代と違い、現代の労働者は選挙権を持った主権者です。革命を起こしてプロレタリアートの独裁を樹立する必要はないのではありませんか?
  19. 暴力的な手段によって権力を奪おうとする思想には賛成できません。選挙で過半数をとれるように努力すべきなのではありませんか?

  1. マルクス主義に関する一般的な入門書はありますか?

    マルクス・エンゲルスの共著『共産党宣言』とエンゲルスの『空想から科学へ』が現在でも最高の入門書です。岩波文庫、国民文庫、新日本文庫から出ています。

     このほか、廣松渉『今こそマルクスを読み返す』(講談社現代新書、1990年)も優れた入門書です。

  2. マルクス経済学のテキストを紹介してください。

    最初に読むものとしては、マルクスが書いたパンフレット『賃労働と資本』および『賃金・価格・利潤』を薦めます。どちらも岩波文庫、国民文庫、新日本文庫から出ています。

     正統派によるテキストとしては、置塩信雄・鶴田満彦・米田康彦『経済学』(大月書店、1988年)。宇野派によるテキストとしては、伊藤誠『資本主義経済の理論』(岩波書店、1989年)があります。

  3. 『資本論』の翻訳にはどんなものがありますか?

    現在でも比較的容易に入手できるものとして、岩波文庫版(向坂逸郎訳)、国民文庫版(岡崎次郎訳)、新日本新書版(共同訳)があります。特にどの翻訳がいいということはありません。

  4. インターネット上にはマルクス主義関連の文献はありますか?

    たくさんあります。赤間道夫さんのWebページから辿ってみてください。

  5. マルクス主義に関するメーリングリストはありますか?

    『資本論』メーリングリストがあります。『資本論』の読書会が中心です。

  6. 日本のマルクス経済学にはどんな学派がありますか?

    正統派、宇野派、市民社会派、廣松派があります。正統派と宇野派は純粋な経済学の流派ですが、市民社会派と廣松派は経済学の枠を超えた広がりを持っています。人数としては正統派が圧倒的多数です。各学派の特徴は以下の通り。

    正統派……中心人物は特にいない。かつては『資本論』に書かれていることをそのまま正しいと認め、他の学派をイデオロギー的に攻撃する傾向が強かった。ただし、置塩信雄のようにマルクスの命題を数学を使って証明しようとする者もいる。

     宇野派……宇野弘蔵(1897-1977)を中心として形成された。経済学を原理論・段階論・現状分析という三つのレベルに分け、『資本論』を原理論、レーニンの『帝国主義論』を段階論に属する書物として位置づける。現在の中心人物は山口重克、降旗節雄。

    市民社会派……平田清明(1922-1995)を中心として形成された。労働者階級の解放という古典的な理念よりも近代的な個人の確立という理念を強調する。現在の中心人物は山田鋭夫、内田弘。

    廣松派……廣松渉(1933-1994)を中心として形成された。「物象化」をキーワードにして『資本論』を読み、その体系的な再構築を図る。現在の中心人物は吉田憲夫、石塚良次。

  7. マルクス経済学と近代経済学という二つの経済学があるのはなぜですか?

    マルクス経済学はマルクスから始まり、近代経済学はメンガー・ジェボンズ・ワルラスから始まります。この両者はそれぞれちがったやり方で経済学の歴史を断絶させたので、相互に交流することなく発展しました。旧来の労働価値説に対し、マルクスは剰余価値説、メンガー・ジェボンズ・ワルラスは効用価値説を導入したのです。

     ただし、効用価値説は労働価値説と対立するものですが、剰余価値説は労働価値説を継承したものです。経済学史の上ではマルクス経済学のほうが正統と言っていいでしょう。

  8. 社会主義と共産主義はどう違うのですか?

    それは思想、運動、体制の三面から考えなければなりません。結論を先に言えば、厳密な区別はありません。

    思想としては、両者は別々の系譜です。社会主義の思想家としてはフーリエ、オウエン、サン・シモン。共産主義の思想家としてはバブーフ、ブランキ、ヴァイトリングがいます。マルクスやエンゲルスは共産主義の系譜に属します。

    運動としては、共産党と言えばそのほとんどがマルクス主義政党ですが、社会党、または社会民主党は必ずしもマルクス主義政党というわけではありません。前者の代表はソ連共産党、後者の代表はドイツ社会民主党です。

    体制としては、特に20世紀に入ってからの用語法として、革命後に成立する第一段階の体制を社会主義、究極目標たる第二段階を共産主義と呼びます。

  9. 資本家というのは株主のことですか。経営者は資本家ではないのでしょうか。

    株主も経営者も資本家階級の一員です。いわゆる「サラリーマン社長」もそうです。彼らは労働者から搾取した剰余価値を分けあっているだけです。

  10. 経営の民主化と労働者独裁とどこが違うのか。

    経営の民主化という言葉が労働者の経営参加という意味であるとしたら、それは社会主義・共産主義とは何の関係もありません。社会主義というのは経営者と労働者の平等を意味するのではなくて、経営者(厳密には資本家)という階級の廃止を意味します。

  11. 『資本論』は経済学批判の書であって、経済学の書ではないのではないか。

    たしかに『資本論』の副題は「経済学批判」ですが、これは従来の経済学に対する批判という意味です。経済学一般にたいする批判ということではありません。マルクスの意図は共産主義運動に科学的基礎を与えることでした。

  12. マルクス主義は科学だとエンゲルスは言うが、科学と言えるのは経済学の部分だけで、階級闘争や革命を主張している部分は科学ではないのでは。

    その通りです。共産主義革命の主張はそれ自体としては科学ではありません。社会主義は、それが科学としての経済学に基礎づけられているという意味で「科学的」と言われるのです。

  13. 現代の日本にはマルクスの時代のような飢餓スレスレの貧困は存在しません。搾取の問題はもはや重要ではないのでは。

    単なる貧富の差が問題なのではなくて、資本家が労働者の賃金や労働時間を勝手に決めていること、さらには必要とあればクビを切って街頭に放り出すことができるということが問題なのです。この問題は現在でもまったく変わっていません。

  14. 搾取がいけないというなら、強度の累進課税を要求すればいいんじゃないですか。

    社会主義革命が廃止するのは資本家階級の所得の一部ではなく、全部です。これは累進課税によっては実現できません。

  15. ソ連が崩壊したことは計画経済の欠陥を証明しました。社会主義が資本主義より劣ったシステムであることは明白な事実です。

    社会主義とは階級の廃止であり、誰もが平等な権利をもって経済活動に参加することです。このような社会主義はソ連では実現しなかったのですから、その失敗をただちに社会主義そのものの失敗と見なすことはできません。

     現代の資本主義経済では大半の市場が寡占市場になっていて、もはや市場メカニズムが作用しているとはいえない状態になっています。ですから、市場経済が計画経済に勝ったというのも全然事実に合いません。

  16. 冷戦は資本主義世界の勝利に終わりました。いいかげん社会主義にしがみつくのはやめたらどうですか?

    ソ連型社会主義の崩壊があらゆる型の社会主義の崩壊を意味するわけではありません。ソ連型社会主義は階級の廃止という社会主義の古典的理念からは大きく外れていましたので、社会主義の崩壊ではなくて社会主義からの逸脱の崩壊だと見ることもできます。

     階級関係が存在する限り、階級の廃止を理念とする社会主義が死に絶えることはないでしょう。

  17. 現在の日本は9割が自分を中流と感じるほど平等な社会です。階級なんてもう存在しないのではありませんか?

    上流・中流・下流という区分の仕方自体が問題です。あなたは資本家階級か労働者階級か、というように質問すれば、「中流」の大多数が労働者階級と答えるに違いないからです。

     階級のない社会とは、役員の会議ではなく労働者の会議によって企業が経営される社会です。このような社会はまだ実現していません。

  18. マルクスやレーニンの時代と違い、現代の労働者は選挙権を持った主権者です。革命を起こしてプロレタリアートの独裁を樹立する必要はないのではありませんか?

    現代の「有権者」は主権者とはとうてい言えません。選挙で選べるのはごくわずかな議員だけであり、権力者の圧倒的多数を占めている官僚については選ぶこともリコールすることもできません。しかも、選挙というのは人を選んでいるだけであり、政策を選ぶことはできません。このような政治制度は根本的に変えるべきです。

  19. 暴力的な手段によって権力を奪おうとする思想には賛成できません。選挙で過半数をとれるように努力すべきなのではありませんか?

    一般国民が政治的な意思を表わす方法は選挙だけではなく、集会、デモ、ストライキといった様々な形があります。そういった形も含めて、暴力的でない形で権力をめざすのが望ましいことは言うまでもありません。しかし、場合によっては暴力的な手段に訴えざるをえないこともあります。あらゆる政府が外交官だけでなく軍隊も持っているのと同じです。