中森明菜『歌姫~UTAHIME~Akina Nakamori Special Live 2005 Empress CLUB eX』

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昨年7月に行われたライブのDVD映像。カバー中心の選曲で、明菜さんは終始座って(手元の歌詞カードを見ながら?)歌っている。二次会のカラオケボックスでナツメロを歌っているような雰囲気だ。

一曲目の「傘がない」は井上陽水の曲。

都会では自殺する若者が増えている
今朝来た新聞の片隅に書いていた
だけども問題は今日の雨  傘がない
行かなくちゃ  君に逢いに行かなくちゃ
君の街に行かなくちゃ  雨にぬれ
つめたい雨が今日は心に浸みる
君の事以外は考えられなくなる
それはいい事だろ?

学生運動が停滞期に入った1970年代の状況を反映した歌詞だ。社会問題に背を向け、彼女との関係しか考えない若者の心情が歌われている。「それはいい事だろ?」という部分がポイント。彼女は何かの運動に参加していて、彼にも参加をすすめているのだが、彼はそのことには興味が持てずに「君の事以外は考えられ」ない。そんな情景が浮かんでくる。

しかし、明菜さんが歌う「傘がない」のイメージはそうではない。雨が降っているので気が滅入り、部屋に閉じこもり、一度も言葉を交わしたことがない片想いの相手に関して妄想を膨らませている、といった風だ。自閉的すぎる。

ライブでは一曲目、DVDでは最後に入っている「私は風」は、1970年代のカルメン・マキがオリジナル。ロック的な長いイントロから入り、それが突然止まってバラード風に歌が始まる奇妙な曲だ。何度聴いてもワケがわからない。二つの違う曲が同居しているような感じ。オリジナルは大変な名曲で、明菜さんの歌い方がおかしいだけかも?と思ってカルメン・マキのファーストアルバム「カルメン・マキ&OZ」を買ってみたのだが、奇妙なのは同じだった。カネの無駄だった。

私はもともとロックが好みなので、この曲の半分は好みだ。明菜さんの声も迫力があって、たいしたことがないカルメン・マキのオリジナルを上回っている。しかしあとの半分は違和感ありまくり。なんとかならなかったのか。

このDVDで最高にいいのは「赤い花」。一昨年に出たシングルだが、私はこのDVDで初めて聴いた。背中にゾクゾクッときた。

風よ お願い さらわないで
二度と在(あ)り処(か)を捜せぬように
深く埋めるから

明菜さんは全身から声を絞り出すようにして、かといって叫ぶのでも張りあげるのでもなく歌っている。明菜さんがこんなふうに歌っている例が他にあっただろうか。ちょっと思い出せない。新しい型を見た気がする。この一曲だけでもDVDの値段に見合っていると思う。

このDVDに関してはろんどん・TW1だよりが私とは違う評価を下している。井上陽水の曲(傘がない、リバーサイド・ホテル、飾りじゃないのよ涙は)のカバーが高く評価されている。たしかに「リバーサイド・ホテル」はまあまあだったかもしれない。